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『うがたれざるもの』(日野裕太郎)

判型:文庫版 コピー 20ページ 頒布価格:100円

私は彼女の前にいる
木製の椅子に拘束され
容赦ない彼女の拷問がくり返される
血を流す私に彼女が問いかけた
「なにをしたい?」

クトゥルフ神話系短編
※残虐表現があります

【カテゴリ】

短編 | クトゥルフ | 拷問 | オカルト | 神話生物 | ゴア

【サンプル】

 私は意識を失わず、痛みのさなかにいた。
 まだ私の前に彼女が立っていることに驚く。全身を覆ってい
る痛みにも驚き、声が出ないことにも、それでもなお身動きを
しようとする自分の身体にも驚く。痛みが続くのに、それでも
私の身体はじっとしていない。これは反応なのか。痛みにどっ
ぷりとつかった状態から逃れようという反応。
 うっすらと確認できる視界、軽い足取りで彼女が動く姿があ
る。耳鳴りの向こうに聞こえるものは、おそらく鼻歌だろう。

 まぶたは腫れ、ろくに開かなくなっている。だが私はそこを
行く黒いパンツスーツ姿の女性を追うべく、必死に目を開こう
とした。
 鼻歌と、靴音が止まった。
「なにをしたい?」
 穏やかな声だ。
 甘ささえたっぷりと含まれている声でかすかに笑い、彼女は
私に近づいた。
 私の視界に彼女の爪先が闖入する。
 そして彼女は私の頭、そこにある髪をつかむと強い力で引き
上げる。

 そこでようやく、私は自分がうつむいていたことに気がつい
た。
「あなたの希望はなに?」
 ずっと聞いていたくなるような、やわらかい声だ。うら若い
彼女は魅力的な女性だった。
 楽しそうに微笑み、彼女は私に尋ねる。
「どうしたい?」
 私はうめいた。
 うめき声しか出ないのだ。言葉にならない。発音ができない。
すでに彼女によって歯の大半は抜かれ、舌には数度するどいハ
サミで切れこみが入れられている。
 私はずたずたになっていた。殴られ切りつけられ、無尽蔵に
傷つけられている。はぎ取られた衣類はわずかに離れた場所に
積まれていたが、とっくに流れ着いた血を吸って重たげな姿に
なっていた。
 床壁天井が剥き出しのコンクリートでできている、掃除のし
やすそうな部屋に私と彼女はいた。
 中央に据えられた木製の頑丈な椅子に、私はすわり釘づけに
なっている。長大な金属のくさびを使い、足や腕は数カ所椅子
に縫い止められていた。出血はおびただしい。

 彼女の手が私の髪を放す。
 重力にしたがって、がくりと首がうなだれる。たったそれだ
けの動きなのに全身にひどい痛みが走って私はうめいた。
 ときおり意識が薄くなり、いまも意識を手放しかけた。そん
なとき彼女は手にしている小振りな金槌で、私の身体を思い切
り叩いた。
 全身が痛みの樹脂で覆われかためられていく。私は悲鳴を上
げなかった。上げる余裕などない。
 私の身体はびくびくと小刻みにふるえていた。
 それからのわずかな時間に、彼女は数度金槌で私を打った。
 絶望的な痛みのなか、私は規則正しい呼吸をくり返す。開き
っぱなしになった口から落ちる息、血、唾液。頬を濡らすもの
が血なのか汗なのか涙なのか、私は判断がつかない。それほど
に彼女から与えられる痛みは猛烈だ。
「長持ちしてね」
 靴音がわずかに距離を置く。ごとごとと重い音がする。楽し
そうな鼻歌。混じる金属音、重い音、軽い音。それらがなにを
しめすかわからない。だがそれらが私を痛めつけるものだとわ
かっている。
「どうしたい?」

 鼻歌の合間に、彼女の問いかけを聞く。
「ねえ、選んでいいよ。ドリルと電動ノコギリ、どっちがいい
?」
 私はうめく。
「ほかにも色々……でもいまはドリルの気分かな。返事しない
と、私が決めるよ」
 彼女の笑う声がして、私のうめき声はかき消された。













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