駄文の王様 > 日野 裕太郎/さつきの本 > スコシの領分

image

『スコシの領分』(日野裕太郎・ハルノブ)

判型:文庫版 オンデマンド 182ページ 頒布価格:600円

Amazon『スコシの領分』をAmazonで購入する

四つ足の動物が死ぬ疫病を
鎮めるべく
冥府の女王アラリ・ノの
贄になろうと
幼なじみと村を出た
――スコシの領分

不吉とされた子供は
言葉を話さず
だがなにもかもを見通す
過去に犯した罪に
とらわれる彼は
子供を手元に置いた
――闇憑きのハコベ

異国から発掘調査にやってきた
彼女はその国の文化に魅了され
知りたいと欲する
それが禁忌だとしても
――探索中毒

短・中編を三本収録
「水に咲く花」とおなじ世界感ですが、
それぞれ単独でもお読みいただけます

【カテゴリ】

幻想 | ファンタジー

【Amazonでレビューいただきました】

from Amazon review
  • »短編三作
  • 「水に咲く花」と地続きの話らしいです。
    というよりも2つ目の話は「水に咲く花の」後日譚でした。
    一つ一つの話が時を超えてつながっています。
    薄い和紙のような帯が付いておりとても好感が持てました。

    内容はというとスコシという主人公の家族は村で変わり者と称されあまりいい扱いを受けていません。そして村に徐々に近づいてくる四つ足のみかかる奇病それらを鎮めるために白羽の矢が当たったスコシは生贄としてお供を引き連れて冥府のアラリ・ノ女王のもとへと死出の旅に出ます。両親のために自らを犠牲にして生贄になろうとするスコシそれを必死で引き止める親子愛が見ものです。
    ラストはどれもページ的に短編なので若干物足りないかもですが逆に言えば読者の考え方次第で結末を変える自由さがあります。
  • By 縁 (2013年2月8日)

【ブログや掲示板で取り上げていただきました】

日野裕太郎『スコシの領分』感想:Yuya Sakurai Official Blog
完璧な人間などいない。 ――そんなことは誰だって知っているのだろう。だが、ほんの少しのことで人は人を嘲り、罵り、侮り、「欠落」していると烙印を押す。だけど、そんな世界は、悲しいだけだ。スコシはそんな世界を、優しく、ただ優しく眺め――戦慄し、涙を押し殺しているが――、最後まで村人と幼馴染のことを気にかける。
佐藤 スコシの領分
スコシは人形みたいだ。スコシに足りないものがあるとすれば、それは人間を不完全たらしめる欠落だろう。欠落それ自体が足りないのである。作中、主人公であるスコシは、極めて人間くささが排除されて描かれている。
駄文の領分|そんなときもある
ここにぼくの、余計なひと言を少し加えると、「闇憑きのハコベ」は才覚のない祈祷師と、彼が引き取った子供の話。「探求中毒」は、それから半世紀ほどのち、村へやってきた異国人の話。 そして「スコシの領分」は、主人公のスコシが、さまざまな理由から、やむを得ず神への生贄として村を出立する話
Natural maker 広報分室
スコシの領分も闇憑きのハコベもやるせないような話で、スコシの領分に至っては3回くらいは泣きそうになった。良い本に出会えた。
2012-01-09 -附子- プロジェクトクロネッカー
日野裕太郎さんの中・短編集『スコシの領分』は、第十三回文学フリマに出展された小説本のなかで、ウェブでの評価が最も高い作品のひとつである。僕も高く評価している一人である

【サンプル】

 神さまに会いに行く。
 
 楽しい旅でも明るい道行きでもない。
 それでも暗い顔をしてはならないのだ、と馬に揺られながら
スコシは思う。
 
  ●
 
 出発の前夜、ひとりで訪れた長はなかなか口を開かなかった。
 せまい部屋のなか、長から漂い出る緊張した気配は、じっと
りと肌にはりつくように粘っていた。スコシの方から用向きを
問おうとすると、長があからさまに目を背けているので言葉に
しにくい。
 なにか望みはないかとようやく尋ねた長は、スコシの方を最
期まで見ようとしなかった。なんでもいうといい。長の声は疲
れていた。そんな老爺を──ぐったり濡れた犬のようにみじめ
な老爺を見るのははじめてであり、衝撃だった。
 ──見送りはしないでください。
 長はうん、とこたえた。駄々をこねる幼な子が放り投げるみ
たいな口ぶりに、スコシは我が耳を疑う。村長らしくもない、

という気持ちが胸を占め、気まずさはスコシの舌をこごらせる。
 もう一度うん、といって、長はスコシの頭をなでた。
 
 
 スコシはアラリ・ノ女王に謁見するため、翌朝村を出た。
 アラリ・ノは冥府の女王だ。死の女神であり、沈黙の隣人で
ある。
 西にある広大な塩の湖の底、白い居城で永遠を生きている。
目が合うだけで、人間など一瞬で塵になると──そう聞く。
 湖に赴き、居城を訪ね、スコシは女王に謁見するのだ。
 アラリ・ノにはアラリ・ノのつとめがある。
 病魔の種まきならびに、その豊かな実りのための領土拡大だ
──御手を止めてくださるよう、スコシは懇願するのである。

 まだ白んでもいない空の下、村を後にした。
 空気が冷たかった。
 空は暗いというより、重く見える。
 胸のあたりに、冷たいとげがたくさんついた、かたいなにか
があった。意識しないようつとめていたが、ふいにそれがのど
元にせり上がって来そうな感覚を覚える。スコシはうつむく。

冷たいそれを、意識から追い出そうと目を閉じる。飲み下した
と思うと、今度は憂鬱になって来た。憂鬱さと故郷のながめを
天秤にかけて、こたえはたやすく出たのに、スコシはうつむい
たまま顔を上げられない。
 陽がのぼるにつれて、指先が暖まった。
 徐々に身体がぬくくなったスコシは、全身にからみついてい
た、冷たくほそい気鬱の糸を切ろうと息を吐く。
 スコシは故郷の景色を見ようと顔を上げた。
 右手の小道の先、立派なザクロの木がある。おさないころの
ぼって落ちたのを思い出して、何故だか気持ちが軽くなった。
左手の道はなかばで消えるが、灌木としげみをかき分けると、
群生する桑の木がある。実が甘くおいしいとのことだが、近く
に昔墓地があったせいで誰も取りに行かない。恋人たちの逢い
引きの場所になっていて、スコシに縁のない場所であった。
 ゆるやかな丘を進むうちに、夜が明けて行く。ふり返ったと
ころで、村は木立に隠れてわからなくなっていた。
 この先の道は、スコシも知らない行程になる。
 道のわきの大きな石、放置された丸太、不意打ちのようにく
ぼみのある──よく子供の転ぶ草原への入り口。通り行くなじ
み深い風景にまつわる思い出が、次々と脳裏をよぎった。

 引き出しからていねいに思い出を取り出し、スコシはそこに
置いていく。
 どこもかしこも知った場所だ。孤を描きはじめた道を進むと、
村からでは鋭角だった遠い山脈、その稜線のかたちが変わった。
変哲もないが、知らない景色が現れる。スコシは後ろ足で立つ
犬を連想した。
 状況が違っていたら、きっと楽しい旅だろう。
 アラリ・ノのもとに、湖にたどり着いたら、懇願のためにス
コシは生きたまま沈む。
 誰も会ったことのない、書物や口伝に息づく女王の姿をスコ
シは思い描く。
 どこまでも広がる黒衣と漆黒の髪、黒曜石の瞳、爪までもが
黒く、女王は決して笑わないという。
 それはスコシに祖母を思い出させた。
 遠く山間の村に嫁いだ父方の祖母は、山火事ですべてを失っ
た。残ったのは腹にいた息子のみ。家財も、夫も焼けた。着の
身着のまま、浮浪しながら故郷に戻った祖母の容貌は、別人の
ように様変わりしていたという。旧知の友人でさえ、それが祖
母であると一瞬わからなかったそうだ。
 火事のことは遠方ながら、村でもとっくに知られていた。山

がひとつ燃え炭となった火事は、空を焦がした。夜でも広い範
囲をこんこんと赤く照らし、炎が猛る様子を見せつけていたそ
うだ。そこから逃げ延び、生き残って腹の子と故郷にたどり着
いた祖母──誰もが生きていようとは思わなかった。だからひ
どく驚いた。
 いろんなものが燃えたよ──孫のスコシを前につぶやいた祖
母の声は、かすかにふるえていた。
 祖母のなかではまだ山の炎は燃え続けているのだと、当時ま
だおさないながらに、スコシは思ったものだった。
 身のうちに負った傷を癒そうとする代価か、祖母は笑うこと
を失った。
 ひとり生き残った代償としてか、祖母は笑わなくなったのだ。
 誰にも責めようがない。そのように祖母は欠けてしまった。
 やがて月が満ち、祖母は赤子を産み落とした。
 スコシの父である。
 周囲にいわせると、手のかからない子供だったそうだ。すく
すく育ち、穏やかな少年は温厚な青年になり、そのころには変
わりものと呼ばれていた。怒らないのだ。盗まれようが罵られ
ようが、疑われようが怒らない。顔を歪めもしない。ただ微笑
む。こまったように笑う。言葉は通じるが、怒りに関してはま

ったく通じなかった。
 欠けた、笑わない女の息子はやはり欠けていて──怒りを持
っていない。
 そう結論づけられた。
 村の誰もがいやがる役目を、父は押しつけられても受け入れ
た──受け入れざるを得なかったといってもいい。ときには断
ろうとすることもあったようだ。しかし周囲は怒らない父を侮
っていた。貧弱な身体つきではなかったが、格下と思えば無体
なことも平気でする。怒ることがないように、父が圧力に逆ら
わなくなるのにそう時間はかからなかったそうだ。逆境という
ほど苦しくはないが、報いのすくない環境にも父は押し黙って
いたという。
 そんな彼のもとに嫁いだのは、大病の末に右手の感覚を失っ
た女だった。
 器量は悪くないのに、彼女は右手のせいで縁談がそれまでま
とまらなかった。
 右手の不都合をおぎなうために、次第に彼女の気は強くなっ
てしまった。それは目元によくあらわれている。
 ふたりの結婚に、好奇の目が集まった。聞こえよがしな暴言
も聞こえた。悪し様にいうものがいて──いわれない悪意によ

ふたりを聞こえよがしに嘲笑する声は、父の気弱にも取れる態。
度に大きくなった。悪意のあるものは、どうしてかそれを誇示
する。結婚後日々届く声に、父でもため息を落としたという。

 しかしそれまでとは違い、彼には新妻がいた。
 彼女は怒った──激怒したのである。
 うらわかき新妻はある夜、ひとり出かけた。右手に大きな石
をにぎり、ひもでくくりつけて、酒場に集まった酔漢たちの前
に新妻は立った。酔漢たちは、若い夫婦をそしるのを肴にして
いた。軒先を酒場として開放しているその家は、夜ともなれば
荒んだ雰囲気で近寄りがたい一帯である──いまも昔も。
 母の目指す相手は酔い、そもそも無頼に迷いがない。
 だが母はひるまなかった。雷鳴のような声で母は酔漢に怒鳴
った。
「あたしの手は石を持ってることもわからない。だから、この
手が壊れるまで誰かを殴っても痛くないってことだ。誰かため
したいやつはいるか?」
 やってやる、という意思表示だ。
 本気だと理解した半数は、威嚇で及び腰になり目をそらした。
 なかには懲りないものもいた。

 本当に殴る意気地が、女なんかにあるものか──酒場に乗り
こんだ母の恫喝も呑んでかかる。しかし母は微塵も迷わなかっ
た。母は相手の尻を、遠慮なく蹴飛ばしたという。それまでに
何度も悪意の牙を剥いた相手のために、母はとっておきの木靴
をはいて出かけていたのだ。
「石で殴るときは、こんなもんじゃすまさないよ。それとも、
あんたじゃなくて、あんたの家族にやってやろうか?」
酔漢の尻の的に、おもしろいほど蹴りは的確に入ったそうだ。。

 以来聞こえよがしに暴言を吐くものはいなくなった。そのと
き母の腹にいたスコシは早産だった。母の怒りにあてられて、
月が満ちていないのに産まれてしまった、と自分では思ってい
る。母は苛烈で恐ろしい。だから腹から逃げ出したのだ、と。

 月が満ちずに生まれたスコシは、自力で呼吸をはじめた瞬間
から欠けた子供として扱われた。
 欠けた血族から産まれた。そもそも月も満ちていない。
 いまはわからずとも、成長すればわかるような欠けた部分が、
必ずすこしはあるだろう──それでスコシと名づけられた。命
名は村の祈祷師の家系のものがする。

 当然のように、母は猛然と抗議したようだ。だが激怒する母
のかたわらで、父はすでに赤子をスコシと呼んでいた。
 父の幼年期と同様に、スコシはすくすく育った。
 やはり祖母は笑わず、父は怒らず、母は周囲に軽んじられま
い、と意固地なほど力みながら生活していた。
 スコシは背がのび力がつき、髪や爪がのびるのがひとよりも
はやかった。笑うし怒るし、母の怒りに怯える。不足があるよ
うに見えなかっただろう。
 だが、でも、では、ならば。
 足りぬはずの子だ、きっと先借りしているものがある──村
長がいいがかりでしかないことを口にしたのは、スコシが十歳
のときだ。村で頻繁に行われる即興の歌会の席、だべりの席で
のことだった。同席した祈祷師は我が意、とうなずいたという。
 耳に入ると母は当然激昂した。
 妙な名前をつけただけでなく、今度は我が子にいわれない悪
口を公然と吐く。村長と祈祷師をとっちめてやる、と息巻くの
を必死にスコシが止める間に、村長の言葉は村に蔓延した。
 足りぬはずが、先借りするなんて──スコシを不埒もののよ
うに見る顔が、ちらほら現れた。
 スコシは戸惑った。自分が欠けているというなら、早産だっ

たからというなら、おなじ月齢で生を受けた友人はどうなのだ。
村長の従兄弟の娘もそうだった。実際めずらしくも異常でもな
い話である。
 異議を唱えたかったが、自分自身の弁護に動こうとした矢先
祖母が亡くなった。
 祖母の死に顔は、生前のどんなときよりも安らいでいた。
 いまだ火事で焼けたかの山は、往年の姿を取り戻していない。
 祖母のひっそりとした葬式のなか、いいがかりに対する反発
心は薄れてしまった。祖母のいなくなった家はもの悲しく、寒
々しい。スコシは泣くでもなく、ぽかんとして過ごし──村の
流言に取り合っていられなかった。
 葬式が終わったスコシの耳に──暮らす村に、遠方の村から
凶報が届いた。
 いわく、家畜が滅んだ──意味がわからなかった。
 なにやら遠方からしらせがあったらしい、と村の面々は広場
に集まっていた。もたらされた凶報の意味がつかめず、お互い
の顔を見る。スコシも、両親もそうだ。
 凶報は遠い村から届けられた手紙だった。たずさえた隣り村
の男も事態がよくわからない、と首をかしげる。その場ではな
にかの間違いではないか、疫病の類ならそうと記すはずである

──一同は要領を得ない伝令に、どよめくしかなかった。
 ただ家畜が滅んだ、とある手紙の意図は汲めなかった。
 半年ほどし、くだんの男が供を連れて村を再訪した──家畜
が滅びたとの凶報は事実だった、と。
 男が連れて来たのは、凶報を発した村の青年だった。青年は
憂鬱そうにしていたものの、頬がこけるでも隈があるでもなく、
いたって健康そうに見える。
 滅んだ、などと恐ろしい伝言の使者とも思えないほど、彼は
健康そうだった。
 ──うちの村は、犬猫にいたるまで死に絶えたよ。
 四つ足にだけ蔓延する病が現れたのだ。原因は見当がつかな
いという。おなじ水を飲み、おなじ土地のものを食べていた二
本足、その村の住人たちは無事だった。青年は怖いとうめいた。
ばたばた生きものが死んでいく。姿が消え、鳴き声が消え、け
もののにおいが消え、静かになった自分の村が怖いのだと。
 スコシらの村には、警告に来たのだった。兆候が見られたら、
その家畜を始末した方がいい──だが青年は兆候を知らずにい
た。しかし彼の、自分たちの村のようにならないでほしい、と
いう願いは心底のものだ。彼は警告のため生地を離れた。巡礼
のように、遠方にある村々を訪れていた。

 ねぎらいながらも、スコシらの村のものは、凶報の発信源で
ある青年の近くに寄ろうとしなかった。
 他人事だった。
 流行り病だとするならば、ほうぼうの村を訪ねる青年の行動
は軽薄である。彼自身が病の運搬人になりかねない。青年が病
について言葉を重ねるに連れ、村人の目は厳しくなった。
 青年が去って後、村は平穏で静かだった──だがじわりと病
はほかの村に広がっていたのだ。
 じきに、スコシの住む村にあっても、他人事ではなくなる。
 やけに家畜が死ぬ気がする、という戸惑った声が、一昨年か
らあったのは事実だ。だがやけに死ぬ気がする、と怪訝に思う
だけで、死に直結する病だなどと、誰も思わなかった。よそか
ら警告の徒が訪れても直結しなかった──まさか、とまだおど
けていられた家畜の死が、やっと病と強固な線でつながったこ
ろには、過半数に近い家畜が眠るように生を終えていた。
 手の打ちようがない。
 この先取るべき対応策は、いくら会合を重ねてみたところで、
妙案どころか試案も出なかった。兆候はいまだつかめないまま
だ。無為に時間が過ぎる。なにをどう講じても、家畜は次々に
死んでいく──力仕事を担う労働力が減る。乳からつくる食物

が消える。体毛からしつらえる布や毛糸が消える、冬のそなえ
ができなくなる。肉を口にできなくなる。市場で売り出す商品
が消える。
 じわりと村に広がっていた、かたちのない不安が変化した。
 二本足の死に直結しない病である。だが明確な困窮、労働の
増加が待っているとわかる。そしていつそれが──いつ二本足
に及ぶか知れたものではない。
 これ以上の病を運んでは困る、と互いが互いを敬遠し、村同
士の交流も廃れた。しかしまったく情報交換がないのも、不安
が募ることになる。そのため川の流れをはさんで、月に一度情
報交換の場を設けたが、かんばしい話はなかった。
 ただ四つ足が死んでいく、静かに、穏やかに死んでいく。苦
しんだ様子はなく、気づくと冷たくなっているのだ。
 すでに病は運ばれ届くものではなく、そこかしこにひそんで
いるものだった。
 遠くの村から、アラリ・ノに謁見した方がよいのでは、との
提案が出たのは昨年の初春。スコシの住まう村に案が届いたの
は、夏の終わりだった。
 年明けには、村を取り巻く風向きが誰の目にも明らかになっ
ていた。

 提案は数々の村を介して届く。スコシらの村に届いたときに
は、謁見の立案から、密使を立てるべきと強い要請に変化して
いた。
 すでに周辺の村々にくらべ、スコシの住む村は富裕層の位置
づけにあった。
 家畜はそれすなわち財産だ。もっとも豊かなものが、貧しい
ものたちのために動くのは当然である。しかし豊かだといわれ
ても、以前より家畜の数は減っている。そしてこれ以上減るの
だけは避けたい。
 アラリ・ノは夜の女王。闇に君臨し、四つ足の動物だけを居
城に召し抱える。アラリ・ノは真正直な女神だ。嘘を嫌う。だ
から言葉を話す二本足を嫌うのだという。
 スコシや友人たちは、おとなたちの理論に首をかしげた。
 二本足──人間が謁見しては、かえって機嫌を損ねることに
なるのではないのか。
 だがおとなたちが川をはさむのをやめ、直接ひたいをつき合
わせての会談をするのだから、なにか策があるのだろうと──
まだどこか楽観的に見ていた。
 根拠もなく、きっと解決して、家畜が死ぬことはなくなるの
だと。

 策が贄を捧げることだと、嫌う二本足の生命を捧げることだ
とわかるのに時間はかからなかった。
 春と呼ぶには暖かくなって来ていたある夜、スコシは自分に
謁見の使者として白羽の矢が立ったのを知った。
 















» 日野裕太郎作品レビュー

Amazonのレビューやtwitterでいただいた感想、とりあげていただいたブログ記事などの一覧です